三日間の東京での合宿から戻ってきた彼女の感想は「ヤバい」でした。
「え?何が?」
「全てが」
自分のテクニックの無さがヤバい
克服しなければならない課題の多さがヤバい
先生からの要求の質の高さがヤバい
先生の凄さを目の当たりにしたヤバい
いろんな意味が含まれたヤバいだったと思います。
沢山あるヤバいを一つでも無くすべく、東京から戻ってきた彼女は、また黙々と自主練習する日々が続きました。
9月に入り、乾先生が瑞浪に来てくださってアカデミーの生徒の為にワークショップを開催してくださいました。
もちろんレッスン後にはコンクール指導です。
私が彼女の踊りを見たのは、この時が初めてでした。
乾先生の的確なアドバイスでみるみるうちに動きが変わっていく様は、見ていてこちらが嬉しくなる程でした。
私は、生徒が成長する機会に立ち合えた喜びを噛み締めながら見学していました。
そして彼女自身も、やればやるほど上達して行くと手応えを感じていたと思います。
9月の瑞浪でのリハーサル以降、私の中では「彼女はもっとやれる。もっと出来る。」そう感じていたので、彼女にはもう一歩大きく踏み出して欲しいと内心ウズウズ感じていました。
具体的にどういう事かと言いますと、「不安」や「恐れ」を手放して欲しいと言う事です。
自分にはこれにチャレンジするだけの価値があるのだろうか?
本当にやってもいいのだろうか?
上手く行かなかったらどうしよう?
私自身も物事を前に進める時に、「不安」や「恐れ」を感じる事が何度もありました。
例えば、世界的な振付家の島崎徹先生をお招きした時です。
こんな田舎の小さな教室に来ていただくなんて…
プロを目指す生徒なんて殆どいないのに…
でも私は生徒たちに本物に触れて欲しい。
それは、プロを目指す目指さないは関係ない。
そう考え、思いきって島崎先生にお願いをしました。
今回のコンクール挑戦で私が彼女にアドバイスしたことは、これだけでした。
そして彼女は自ら「不安」と「恐れ」を手放しました。
この手放しの効果があったのか、コンクール本番の直前リハーサルを、再び乾先生のいらっしゃる東京で、5日間の合宿という形で実現する幸運に恵まれました。
というのも、乾先生のスケジュールが急に空いて、指導を受けられることになったのです!
この時も、ありがたいことに、夏にお世話になったスタジオに寝泊まりしての合宿となりました。
自分のやれることは全てやる。
その為には「不安」や「恐れ」を手放さなければ絶対に出来ません。
それが出来たことで彼女は大きく成長したと思います。
夏から続いた幸運は、この二度目の合宿、そしてコンクールにも先生が立ち会ってくださるという本番当日まで続いたのでした。
つづく